私の診療に対する基本姿勢

全人的な診療

 近年、ともすると疾患だけに注目してその人の全人格を無視したような治療が行われていますが、誠に残念なことです。 私達、医師は、その人のこれまでの人生や価値観あるいはその人の個性を十分に念頭において治療に当たらねばならないと思っています。 そのためには疾患自体の病態の把握はもちろんですが、その人を十分に理解する必要があり、お互い医師と患者の関係を離れて対等な友人になるのが出発点だと思います。 その上で、自分の持っている医学的な知識や情報をわかりやすく説明して、その人に治療法を選択していただくことが最も人格を尊重した治療だと考えています。 ただ、その際「治療法にABCの3通りがあります。どれでも選んでください」ではなく、医学の知識を持った古くからの友人として、ご家族の要望も含んだ的確なアドバイスをすることが今、最も望まれるていることではないでしょうか。

治療と癒え

 医療機関では医師、看護師その他医療スタッフにより、病態を改善すべく最善の処置がなされます。 すなわち、薬や手術などいわゆる“治療”が行われ、一応の改善がみられますが、決して治癒したわけではありません。 “癒し”は医療では出来ないことだと思います。 痛いところを家族にさすってもらうと、疼痛は和らぎます。 高熱の時、母から氷枕をしてもらい冷たい濡れタオルを額に掛けてもらうと苦しさが緩んでいきます。 野生動物が怪我をすると母親や肉親が傷を舐めるのも同じことのように思います。 治癒には何よりも家族の愛情が必須のものだと感じています。

自身の治癒力を信じる

 医療では治癒させることは出来ません。 ある程度までに手助けをするだけです。 病から完全に回復するのは家族の愛と本人の生命力です。 風邪がすっきりしない時など、もっと強力な薬を求める人がいますが、もっと自分の治癒力を信じてあげることだと思います。

患者さんとの信頼関係

 医療を行う上で最も大事なことは患者さんと医師の信頼関係だと思います。 医師特に開業医はいわゆるホームドクターとしてその人やご家族の体調はいうに及ばず人柄や性格まで知っているのが望ましいと思います。 そうでないとなかなか全人的な診療は出来ないでしょう。 一方で、プライバシーの問題が有りますが、出来るだけ医師の前では自分を取り巻く問題や環境についても聞かせていただけるとありがたいと思っています。

最期は自宅で

 今までに多くの方の最期に立ち合わせていただきましたが、80歳を超えた方が住み慣れた自宅で肉親に囲まれて眠るように逝かれるのが最も安らかだと思っています。 その意味でも在宅で最後を迎えようとされる患者さんには出来るだけのサポートをしたいと考えています。